花曇り
買い物のあと、家の近所をぐるりとまわる。
どこに桜の木があるのか知りたかった。
生まれ育った町ではどこに桜の木があって、どこが早くて、遅くて、なんてのも大体把握してたけど、初めて迎えるこの土地での春。地道にこの足で、いや車で確認しなくてはどうにもならない。
天文台通りを左折して、飛行場のほうへ。
それから武蔵野の森公園と外国語大、警察学校の間を通って、スタジアムに出る。
こういうときの私の勘はよく当たる。
その道はまさに延々と続く桜並木道だった。
まだ五分咲きにもならないくらいだったけど、花曇りの空に淡いピンク色が映し出されるよう。
土地柄広大な敷地が続くので、空がだだっ広く車も信号も少なくて、ゆっくりゆっくりまっすぐな道をゆく。
「ほら、桜だよ」と教えると、娘は身を乗り出してその光景を目に焼き付けていた。
「桜、いっぱーい!」と嬉しそう。良かった。去年まではただ見つめるだけだったのに、ああ、成長を感じる。
だけど感動もつかの間、よほどその景色が気に入ったのか「もう一回!」とアンコール。
5周くらいした。
疲れた…。
眼前に広がる桜並木道。
曇り空。
あたたかい風。
遮るものは何もなく、まっすぐすぎるほどまっすぐな道。
花曇り、という言葉がうまれた遠い昔のことを思う。
平安の世のみやこは知らないけれど、きっとその頃と変わらぬものを今見ているのだろうなぁと思った。
東京に暮らし始めて、尚更季節に敏感になった気がする。ないものねだり。