分倍河原ふたり旅

平日、殆ど出掛けることはない。出掛けるとしたら重い腰を上げて仕方なく、夕飯の買い出しの為に徒歩3分のスーパーへ行くくらいのものだ。
そもそもが出不精だったのが、娘を産んでからはそれに輪をかけて何処へも出かけたくなくなった。いや、抱っこ紐に大人しくおさまっている赤ん坊の頃は、毎日日課のように散歩や買い物に出掛けていたかもしれない。雨の日も、灰が吹き荒ぶ日も。ある種の使命感のようなものだった。

2歳の子供を連れての外出はなかなか骨が折れる。家を出るまでも相当難儀する。
本当は公園にでも連れて行けばいいのだろうがこれがなかなかどうして…
怠惰な母親で、娘には申し訳なく思うがどうしようもない。慢性的に鬱状態なのもある。いつになったらここから脱却できるのか。


それでもわざわざ電車に乗って出掛ける気になったのは、自分の欲望の為に他ならない。探し求めている本を見つける為、ただそれだけの衝動と欲望に突き動かされ、娘を連れ立って京王線に乗った。いつもと反対のホームに降り立ち電車を待つ。娘は電車が大好きだが、目の前で電車が通り過ぎる瞬間は相当に怖いらしく「だっこ!」とせがみしがみついてくる。私でもその瞬間は、あまりの轟音とスピードに一歩後退し顔を伏せてしまうほどだから、娘にとってどれ程脅威か想像するに容易い。
 
電車が通り過ぎ、静まり返ったホームにはなにやら鳥の囀りがこだましているのがわかった。姿は見えないが、おそらくツバメだろう。ツバメはこういうところによく巣を作る。
そういえばこちらに越してきてからはすっかり鳥の声を聴くこともなくなった。鹿児島ではスズメやメジロやハトやカラスがいつでも庭に遊びに来ていて、その声を聴くだけで理由もなく癒されるのだった。

人は殆どいないと言っていい、昼下がりの真新しい駅。聴こえるのはツバメの声だけで、ここは本当に東京か?と思えるほど、やっぱりいいところに越してきたなぁと思った。


各駅停車の電車に乗り込む。ずっと座ったままで目的地に着くというのはなんてラクなのだろう。しかも10分程度で。娘は全くぐずることもなく楽しげに窓の外を眺めている。こんなことならもっと電車に乗ってお出掛けしようかしらと思ってしまうほど。そのくらい、子連れにとっていい道中。

目的地到達。
駅員さんに本屋がある場所を尋ねる。

駅構内を過ぎて地上に出ると、落ち葉の絨毯が広がっていた。空は曇天で今にも雨が降り出しそうだ。娘は落ち葉を踏みしめ楽しそう。欧米を思わせる洒落たレンガ造りの洋菓子屋さんと、落ち葉とこの曇天が、ますます秋の静けさと美しさを際立たせていた。

来て良かったなぁと、思った。


お目当ての本を数冊購入し、その隣の100均へ行ってみる。都内にもこんな場所があるのかと思うほど広く、品揃えが豊富でとてもじゃないけど全て見て回ることは不可能だった。娘用のおかしとおもちゃを少し買って、店を出る。
同建物内にファミレスがあったのでそこで遅目の昼食をとった。娘は終始買ったおもちゃに夢中だった。


外は雨が降り出し、駅に着くまで私も娘も随分濡れた。「かさ!」「あめだねー」と娘が嬉しそうに何度も口にするので、雨でもこれはこれでいいなぁと思った。

帰りの切符を買うのに、JRの切符を買ってしまっていたらしくまた同じ駅員さんのお世話になってしまった。


帰りの各駅停車も空いていて、とてもよかった。


分倍河原ふたり旅、とても良きものでした。たまには、ね。

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